亀井洋一郎展「モルフォロジー/コスモロジー」プレスリリース用テキスト,あーとらんどギャラリー,2025年


モルフォロジー/コスモロジー

 ドローイング作品を制作し始めたきっかけは、コロナ禍の緊急事態宣言でした。沖縄に移住して以来、日々の制作スペースを職場の設備に頼ってきた私にとって、よもやそこに立ち入れない状況になることは想像もしていませんでした。外出も制限され、やむなく自宅内の空間で非日常的な時間を過ごす中、そんな折にふと「今ならドローイングに取り組めるかもしれない」という気持ちになりました。

 ドローイングに対するあこがれは、以前からありました。あこがれの記憶を辿ると、小清水漸さんのクレパスを用いたドローイングの連作や、若林奮さんの鉛筆で森の木々を描いた18点組の大作を知ったことがその始まりです。当時それらの作品を通して彫刻表現の本質を理解できたように思えましたし、作品から感じ得た各々の彫刻家としての矜持にも圧倒されました。

 こうした自身の変化や憧憬を背景に開始された私のドローイング制作ですが、ひとまずその方向性として二つのテーマを設けました。ひとつが「内外を区分する境界」について、もうひとつが「それに伴う内的空間の様相」についてです。これらは私が磁器の作品『ラティスレセプタクル』で思索してきたテーマと同じものであり、そのような点において今回のドローイング作品は、これまでやきもので取り組んできた内容を別様の表現形式によって試みたヴァリエーションといえます。

 境界は空間に容器性を与え、様相は体験される空間の性質を物語ります。そのうえで今回の制作に際しては、これまで以上に緻密な「規則的なシステム」の設定に先ずは意識を向けました。それは同一単位の集積という基本構造を明確に保ちつつ、画面上に生ずる自然な「揺らぎ」の要素を表現に取り込みたいと考えたからです。結果それらは多層状に重なり合うことで造形に能動性を与え、次第に作品は「分裂と融合によって形態が変化していくイメージ」や、「特有の法則や秩序から生まれる事象のイメージ」へと展開していきました。

 本展ではこのような展開からなる二つのシリーズを中心に、13点の新作ドローイングを発表いたします。

亀井洋一郎